Web 2.0とGoogleが持っていた意味

Web 2.0とは何だったのか


2004年前後から語られ始めた、次世代の新しいウェブの形「Web 2.0」。

IT用語辞典-Web 2.0とは

それは、「ネット集合知」とでも言うべき新しい知性のありかたを構想する思想だった。
人々がネットに散らばる情報をただ受け取るというのが「Web 1.0」なら、 ネットを見る人が全員、なんらかの果実をウェブ上に残すことで「ウェブを良くすることに全員が貢献する」ありかたが、2.0。
それを続けてゆくことで、ネット上の情報は非常に高度で洗練されたものになっていくに違いない。
「Web 2.0」とは、ウェブ上の「グローバリズム」であり、グローバルなものは進化するという思想のひとつの現れであった。

だが多くの識者が胸を躍らせ期待した未来形のネットのありかたは、実際はGoogleという一つの企業、一つのサービスを中心に進行した。
そして、Web 2.0が成立したかに見えた瞬間に、それに反する動き……SNSが出てきた。

Google以前にネットを楽しむ方法は「ネットサーフィン」だった


Google以前にネットを楽しむ方法は「ネットサーフィン」だった。
あるサイトに行き、そのサイトの「リンク集」から別のページへ飛び、移動してゆく方法。おもなサイトにはほぼ必ずリンク集があった。
リンクを辿ってサイトからサイトへ飛び移る方法なので「ネットサーフィン」と呼ばれたが、これはあまりにも運任せの方法なので対策が取られた。
それがYahooなどの大規模なリンクサイト(「ポータルサイト」)で、ランキングを作ることでより付加価値の高いリンクをユーザーに提供していた。
が、ランキングを人力で作っていたので、信頼性が低く基準があいまいで使い勝手が悪かった。また、そもそもそのポータルサイトに登録したサイトしか表示されなかった。
自由度が低くユーザーがアレンジできない検索を改善すべく進化していったのが「検索エンジン」だった。

Googleはなぜナンバーワン検索エンジンになったのか → 「ページランク」という大発明


「ページランク」という考え方が革新的だったポイントは2点。

ページランク-wikipedia

まず、「サイト」ではなく「ページ」に対して評価を下すというのが革新的だった。
以前のアクセスランキングは人力で作っていたため「サイト」ごとの評価しかできなかったが、機械検索を取り入れたことで膨大な数の「ページ」ごとの評価ができるようになった。
このことによってより細かい単位の情報検索が可能になった。

次に、あるサイト、あるページへの「アクセス数」ではなく、「リンクされている数」と「リンクされている質」を重視する、という発想。
これは学者の間ではひろく知られていた学術論文の評価法を取り入れたもので、重要な情報は重要な情報とつながって現れる、もの。
良質なリンクを、そのサイトへの「優れた支持投票」と見なし、それを数値化する手法は、驚くほど的確な検索結果を導いた。
これにより、「サイトのリンク集からサイトの玄関へ飛ぶ」のではなく、「Googleにたびたび戻って検索しては該当ページに飛ぶ」というふうに、ネットユーザーの行動パターンが変わった。

「リンクする」「リンクを貼る」、そして「検索する」ことがネットに参加すること。→それがGoogleの精度を上げてゆく


面白いものを紹介したいというユーザーの気持ちを反映させることで、Googleは人力をなるべく介さない機械的な検索システムを持ちながら、 どこよりもユーザーの行動を反映するエンジンになってゆく。
現在のGoogleは「ユーザーの検索行動」や「特定のクリック行動」なども検索に織り込んでおり、 ユーザーのネット参加によって進化してゆくという考え方はますます推し進められている。

ブログの流行とGoogle


2000年前後のネットでは、「日記サイト」「テキストサイト」というものがメジャーだった。
これは各種ツールやテンプレートの助けを借りつつも、IPアドレス取得からデータ構成、デザインなどまで全部自前で作る日記サイトだった。
ひとつのサイトにたくさんのページを作るのは自力でやるとかなり面倒くさいので、なるべくページを減らす作りが主流だった。

しかしGoogleが目立ち始めた2005年ごろから、「ブログ」という新しいタイプの個人サイトが登場する。
「ブログ」とは、ウェブサービス側が用意した基本フォーマットに文章や画像を流し込むと、ブログツール側がHTMLを自動的に生成してくれ、簡単に個人サイトを作れる仕組み。
その最大の特徴は「記事ごとに別のURL(ページ)を持ち、それがそれぞれリンクし合っていること」こと。これを「パーマリンク」という。

アメーバブログ

記事ごとにURLを作り記事を更新するのは、けっこうめんどうなので、日記サイトなどでは、1つのURL(ページ)にかなりの情報を詰め込んでいた。が、このやり方だと、Googleのような検索エンジンには引っかかりにくい。ネットサーフィン時代には「知人のリンク」に頼っていたので、それでもよかった。
テキストサイトが衰退しブログが流行したのは、Googleの登場によるところが大きい。パーマリンクを自動的にやってくれるので、検索エンジンに引っかかりやすくなり、ブログ全体に興味がなくてもある記事にだけ人が訪れるようになった。こういう検索エンジン対策のことをSEO(Search Engine Optimization)という。
ブログは多くのリンクされたページを生みだし、そこに他人がリンクしやすい仕組みになっているので、Googleに拾ってもらいやすいだけでなく、Google検索の充実にも役立つという相互依存関係が生まれている。(が、それがマイナスに働くこともあり、いわゆる「スパムリンク」を繰り返す業者とのイタチごっこは有名。また、悪質なバイラルメディアやステルス・マーケティングが大きな問題として浮上してきた。)

こういった、ウェブサービスとユーザー側が密接に相互関係を持ちつつ大きな流れを作っていき、誰もがたんなる受け手でなくネットの変化の参加者になるあり方のことを、ティム・オライリーは「Web 2.0」と呼んだ。

Googleは、膨大な情報を食べて進化してゆく一種の生命体と化している


Google Maps や Google Earthで地形情報をも収集しはじめ、いまや唯一無二のビッグデータモンスターになっている。

グーグルマップ

おそらく、いま世界で真の意味で「グローバル」に近いものは何かといえば、それはgoogleではないか。
そしてもっとも「グローバル」な存在は、目もくらむような数の顧客を抱えるがゆえに、ある種の権力となってゆく。
それが公共の仕事でもボランティアの集積でも学者の仕事でもなく、一企業である、というところに現代の世界の奇妙さが現れている。

SNS …… ウェブにおける反グローバル、半グローバル

SNSとは何か


ソーシャル・ネットワーキング・サービスは、広義の定義としては「社会的なネットワークが作れるウェブサービス」のことをいう。なので、たとえばある種の掲示板もSNSに分類されることもある。
しかし一般的にいえば、SNSとは「サービスに名前を登録し自分の居場所を作り」「サービス内で友人知人のネットワークを作れる」サービスのことをいう。
個人名(ハンドルネーム)で情報を発信し、リアルな人間関係をも含む他者との関係を作っていくことを重視するとともに、情報が広がる範囲をコントロールできるのがSNSの大きな特徴である。

SNSの基礎になっているのは、「六次の隔たり」理論。

六次の隔たり

六回伝手をたどっていけば世界のどこへでも到達できる、というこの考え方は、実は「ネットサーフィン」の思想への先祖返り、ともいえる。

SNSとGoogle


SNSはGoogleが覇権を築きはじめた2006年ごろから流行し始めた。
そこには、Googleを中心に巨大な生態系を作っていく新しくオープンなネットの世界にたいするカウンターがある。つまり、「いちいち世界に公開されちゃうんじゃなくもっとひっそり発言したい」という気持ちが、SNSを作ったひとつの要因。
それゆえに、多くのSNSは

1)自分の発言が公開される範囲を指定することができる
2)自分の発言が検索エンジンにほとんど(あるいは全く)引っかからない

という特徴を持つ。
大規模なウェブサービスやブログが「Googleに見てもらえる」ことを重視しているのとは正反対に、SNSでは「Googleから隠れる」あるいは「インターネットから隠れる」ことが重要になっている。

FacebookとLINE …… メンバーズオンリーの思想


現在、もっとも「格式張って敷居が高い」SNSといえばFacebookを思い浮かべる人が多い。Facebookの最大の特徴は「登録名が実名でなくてはいけない」というルールで、これがFacebookを特異なSNSにしている。
すなわち、実名なので悪ふざけも別キャラ設定もできず、遊びの要素がほとんど入れられない。作るネットワークもリアルの知り合いがそのまま移行するケースがほとんど。
「リアルと一体化したSNS」であり、「リアルに役立てるSNS」であり、だからこそリアルのトラブルもまったくぼかされずに持ち込まれる。シャレのきかないSNSといえる。
投稿は友人限定や全体公開が選べるが、いずれにせよGoogleには全く引っかからない。最初から「Web2.0」に貢献する気はないサービスである。

LINEはFacebookよりさらにプライベートに寄ったサービスで、SNSというよりもはや「コミュニケーションツール」というべきところまで来ている。
なにしろ、本人が「流出」させない限りインターネットには全く何の情報も公開されない。たんにウェブの基本システムを利用しているだけで、内容的には「電話」「メール」「ポケベル」といった伝達用ツールの一種である。
集合知的なネット思想には完全に背を向けている。

Twitter …… 曖昧ゆえに愛用者が多く、曖昧ゆえに炎上し、曖昧ゆえに儲からない


Twitterはそのお手軽さ、ハンドルネームを許し素性を隠せる遊びの多さ、そして利用者の多さと発言公開者の多さから来る情報の豊富さなど、非常に活発に動いているサービスである。
が、厳密な意味では「SNSではない」と運営自身が発言しており、SNSとオープンなサービスの合間にいる境界線上のメディアであるといえる。

その曖昧さが、多くの愛用者と多くの炎上を生んでいる。
使用感覚としてはかなり「SNS的」、つまり身内にたいして発信している感覚がある。だから「本音」や「愚痴」も出るし悪ふざけもしたりするのだが、 Twitterの発言は全体公開になっていれば「それなりに」Googleにも拾われるし、そこでの発言は「公に言ったこと」という扱いにされることも多い。
この、使用感覚とSNSとしての中途半端さの微妙なズレが、炎上を生む。現在ネットで盛り上がる炎上事件の何割かはTwitter発である。

Togetter …… ローカルな議論の場へ


Twitterのつぶやきを「拾ってまとめる」という形で利用者がコンテンツを作るサービスが「Togetter」。
数少ない「SNSまとめサイト」である。

ここには「Web2.0的な集合知」と、「SNS的なローカルな発信」、そして「政治から食べ物までありとあらゆるものに対する議論」が混在している。

集合知の例としては

【ついに判明!】とある一枚の謎の写真「この観音像はどこにあったのか?」写ったものをヒントに推理続々「ガチ勢すごい」「感動した」

SNS的な身近な発信の例としては

台湾で終戦を迎えた父親が教えてくれたという「目玉焼きスープ」が何しろ美味しそうで作ってみる人続々

アツい(そしてしばしばわりとどうでもいい)議論の例としては

焼き鳥を串から外して食べるのはダメ?

パブリックな発言とプライベートな発信の境目にあるTwitterだからこそ、こういった独特のコンテンツが生まれる。端境期にあるネットの面白さと危うさがつまったサイトといえる。





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