三題噺練習のコンセプト


自分の中にある「見えないデータベース」を利用する感じを掴むためのトレーニング。
だから、お話になりにくい、関連性のない3つのワードを使って物語の設定を作る。
それを強引につないでいっても「冒険物語の基本構造を押さえておけば、自然にお話になる」ことを理解するのが目的。
そしてできれば、自分の中に、物語の基本要素となる元ネタ(イメージ、心理、ギャグetc)が眠っていることに気づいてほしい。

こういう目的の訓練なので、きれいに整ったお話を作るのではなく、なるべく奇妙な、納得いくようないかないようなお話を目指す。
強引なお話に納得感を持たせるには、主人公の心理にそれなりの説得力があることが最重要。
奇妙なお話なのに、主人公の心理はそれなりに辻褄があっているように見える、というのが理想。

三題噺を作る手順


1)3つのお題を、下記の「お題あてはめリスト」の[お題]の箇所に適当に入れる。そして、入れたリストをどこかに書き出す。

2)書き出したものを眺めて、それらを結びつけられそうな、4番目のキーワードを一つ書き出す。

この4つめのキーワードには、「人の心」や「人間関係」が関係する言葉を選ぶと話が作りやすい。

<心理・心情に関するワード例>

信頼、憎しみ、一目惚れ、片思い、執着、飽き、裏切り、策謀、騙し、告白、嘘、純愛、別れ
友情、近所付き合い、嫌い、熱中、依存、崇拝、軽蔑、迷い、勘違い、嘆き、絶望、孤独 など

3)4つのキーワードを使って、物語のアイデアを一度、箇条書きでシンプルに書いてみる。 この時、なるべく荒唐無稽な、妙ちきりんな設定にしようとがんばってみる。

4)箇条書きを眺めながら、主人公の心理的動機について検討をくわえ、設定を修正・追加してみる。この過程が大事。

5)それらを使ってあらすじを書いてみる。

お題あてはめリスト


前回やった、ボグラーの物語分析の<越境>の部分にもとづいて、キーワードをはめる場所を作っている。

1)ヒーローは日常の世界にいる

主人公が越境する前の日常に深く関係しているものは? → [お題]

2)冒険への誘いが来る

主人公が「越境」する最初のきっかけを作ったアイテム・出来事は? → [お題]

3)ヒーローは最初は乗り気ではない

主人公が越境するのを妨げる、アイテム・出来事は? → [お題]

4)ヒーローは賢者に出会うい

現れた賢者の特徴は? → [お題]

賢者が主人公に与えるものは? → [お題]

5)ヒーローは越境する

主人公が「越境」するさいにキーになったものは? → [お題]

主人公が「越境」した先の世界の、特徴or特徴的なアイテムは? → [お題]

補助 …… ジャンル選択


ファンタジー、ミステリー、パニック物、ホラー、学園物、恋愛物、童話、戦記、伝奇物
こういった「ジャンル」を決めて、4つめのキーワードと絡めて構想を練ることで、考えが絞れることがある。

作成例1

お題 …… 貸し出し、時計、パンダ

お題のあてはめ


主人公が越境する前の日常に深く関係しているものは? → パンダ

主人公が「越境」する最初のきっかけを作ったアイテム・出来事は? → 時計

賢者が主人公に与えるものは? → 貸し出し

第4のキーワード → 裏切り

アイデア箇条書き


・主人公は動物園の飼育員でパンダの世話をしており動物行動学の研究者でもある
・主人公はパンダの食事を見守りつつ時計を見ているうち、口を動かすリズムにパターンがあることに気づく
・パンダには専用の言語があるのではないかと思い至った主人公は、大学の恩師に相談
・主人公は期間限定で中国の奥地に派遣(貸し出し)されることに

心理的、辻褄的な検討点


・主人公だけがパンダの食事リズムに気づく理由は何か → 質のいい時計を買ったから?
・恩師が主人公を派遣員にするための理由がほしい → 学界に忖度?

完成したあらすじ


猫山三郎は大学で動物行動学を専攻する学生。研究室の教授から紹介され、動物園で飼育員のバイトもしている。
動物の行動観察には時間をきっちり測ることも大切といわれ、高いストップウォッチを買った。
ストップウォッチが気に入った三郎は、バイト中にもいろいろなところで時間を測って遊ぶ。
パンダがゆっくり笹を噛んでいるのを見守りつつ、噛む間隔を測定して過ごしていると、笹を噛む間隔が少しずつ変化しながらある種のパターンを作っていることに気づく。
そしてあるパターンでパンダが笹を噛むと、周囲のパンダが一定の行動をすることを発見し三郎は興奮。

パンダは笹を噛むリズムで周囲に指示を出しているかもしれない、それはある種の言語に近いのではないか、という発見を三郎は尊敬する恩師に伝える。
すると恩師は、よく発見した、と三郎を褒め称え食事に誘う。
恩師にさんざん飲まされ酔いつぶれた三郎がはっと目覚めてみると、そこは狭い貨物船の中で、手首が拘束されていた。

やがてあやしい男が船室に訪れ、恩師はおまえを中国のさる組織に貸し出したのだ、と告げる。もっとももう返却はされないかもしれないが、と。
パンダがかつて高度な文明を持ち言語を持っていたことは、動物行動学の世界では触れてはならないタブーだという。
絶大な権力を持つ中国の長老学者がおまえの身柄を望んだのだ、おまえの恩師はすぐにおまえを売ったよ、と告げられ三郎は絶望。
こうして三郎は、中国の奥地で暗躍する謎の組織に囚われ、太古のパンダが築いたという幻のパンダ文明を目指すことになるのだった。

解説


ちょっとしたことに気づいてしまって拉致→越境→冒険、というのは冒険物語の典型的な流れのひとつ。
この話の場合、賢者(=恩師)がすぐに主人公を裏切るので、冒険パートが始まったら別の賢者が必要になる。

作成例2

お題 …… 貸し出し、時計、パンダ

お題のあてはめ


主人公が越境する前の日常に深く関係しているものは? → 貸し出し

主人公が越境するのを妨げる、アイテム・出来事は? → 時計

現れた賢者の特徴は? → パンダ

第4のキーワード → 鬱屈

アイデア箇条書き


・主人公は閑職に回された中年男。何かを貸し出すアルバイトをしている。
・あるとき、青白い顔の若い女性と一緒に飲み、それからたびたび会うように。
・女性はしきりに二軒目に行くことを頼んでくるが、主人公は深入りしたくなくてなかなかうなずかない。
・ついに承諾して二軒目に行くと、そこは仮装クラブ。
・主人公は女性とはぐれてしまい、パンダの仮面をつけた従業員に案内されて店の奥に入っていく。

心理的、辻褄的な検討点


・主人公が若い女性と飲み友達になるきっかけは? → 自分を貸し出す仕事?
・なぜ主人公は二軒目に行くのをためらうのか → 仕事のルールだから?

完成したあらすじ


木村忠生は独身の中年男。あるメーカーに勤めているが、派閥争いに巻き込まれ社史編纂室送りになっている。
退屈で鬱屈した生活を変えるべく、ネットで見た「レンタル人間」の副業に募集したところ合格。レンタル飲み友達なる仕事を始めた。
飲み代と交通費だけ払ってもらって飲みにつきあう仕事で、時間は二時間、酒は三杯までと決めている。
人気はないし大変なことも多いが、失うものもない自分には向いた酔狂な仕事だと思ってそれなりに楽しんでいる。

あるとき、成人したばかりの、陰のある若い女性に依頼され、何もしゃべらずに飲みに付き合う。
一回きりかと思ったら、それから定期的に呼び出されるように。面白いことも言っていないのに謎だらけである。
トモと名乗るその女性は、あるときからしきりに時間延長して二軒目にもつきあってくれと頼むようになる。
が、忠生は自分の決めた時間のルールを守るため何度も断る。
しかし次第に根負けし、ついに二軒目に行くことに。

トモが忠生を連れて行ったのは、客も従業員も仮面をかぶっている、いわゆる仮装クラブであった。
あれほど熱心に忠生を誘っていたトモは、店に入ると急に冷たくなり、トイレに行くと言って店の奥に消える。
それきり戻ってこないトモを探してもらおうと、パンダの仮面の従業員に話しかけると、忠生も店の奥へ案内されることに。
しかしそこは、足を踏み入れたら簡単には戻れない魔境であった……。

解説


主人公の初期設定に重点を置いて書いてみたあらすじ。
仕事にも生活にもやりがいを失った主人公が遊びに似た仕事を始める、というのが序盤設定のポイントになっている。
反面、このあらすじには、物語本編の核心をうかがわせるものがほぼ何も書かれていない。
トモの狙いは何なのか、仮装クラブの奥に何があるのか、本来ならもう少し匂わせたほうが良くなる。





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